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Corpus 5

「わがままと優しさと。」

パリに留学していた時、今みたいにジュエリーデザイナーになるとは考えていなくて、古着屋もやりたいと思って服を集めている時期があった。このドレスもその時の1着で、学生でもギリ買える値段だったのを覚えている。
 詳しくはわからないのだけど、おそらく1800年代。70年か80年だろうか。ルノワールが1876年に書いた「 Bal du moulin de la Galette」に出てくる婦人たちの服装にそっくりだ。
 まだまだオートクチュール全盛の時代だからか、至る所に修復の跡がある。この跡が楽しい想像を掻き立てる。この服なら、背の高い人から低い人の手に渡ったんだなとか、お直ししてたらボタンがずれちゃって、同じ柄の布がないからとりあえず見えない部分だから似たような布で埋め合わせちゃえ!みたいな。治し方も“ラテン”な雰囲気でえらく可愛い。
 いろんなアーカイブがある中でこのドレスは「ウキウキ感」を思い出させてくれる。パリでいろんなものに囲まれて感化されていた時、見るもの全てが楽しいし、作るものに自分の脳みそを全投影していたように思う。まだ学生だし、作品を“発表”するだけだったからわがままでいられた。
 幸いmoilを慕ってくれる人が増えて、私も人の子。買ってもらった人のつけ心地なんかを考えて日々制作に臨んでいる。バファリンじゃないけど、moilのジュエリーの半分(?)は優しさを込めている。
そんな自分自身にちょっと物足りなさを感じたり、不甲斐なさを感じた時、この服を見るとパリのmy wayなあの感覚が蘇ってくる。moil Oは私のわがままや、脳みそにあるやりたいことをありったけぶつけたつけ心地最悪の、やたらめったら重い作品もある。こんな2面性を持ったブランドmoil。優しさがなくとも大丈夫な、お体に余裕があるとき、ぜひ私のわがままにもお付き合いください。

 

2022.05.28