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Corpus 3

「ターニングポイント、正解はナシ!」

「ターニングポイント、正解はナシ!」

異世界。当時大学2年の私は1歩踏み入れてそう感じた。 楕円で真っ白。縁取りされたChristian Diorと書かれた看板が目の前に。さすがはビッグメゾン……ではなく、ここは恵比寿のヴィンテージショップ。1800年代の服からメゾンのアーカイブまでずらり展示されている。ここEVA Vintage(現在は代官山に移転)に出会えたことは、その後の自分を思い返しても幸運だったとしか言いようがない。

 EVAでみつけたこのイヴ・サンローランは1970年代初期~1980年代初期のもので、デジタルプリント以前のもののよう。予算がいくらでその間でかかる工程の値段を加味してこのデザインで!と急ぎとか採算とかそういう匂いがしなくて、「お貧しい……」とどこかの芸人に呟かれてしまうことも微塵もなさそうだ。このワンピースは手数をかけて作り上げる、職人の情熱を纏っていて、これぞメゾンの仕事とも思わせてくれた。

 EVAに通うようになった頃、店主であり、いつも女優のような七変化をするオリジナル感抜群のお姉さんから、古着のリメイクをやってみないかとお誘いを受けた。1820年代の服を自由に作り替える……。そんな年代もの代えがきかないし、責任重大。と思いながらも、根が大胆な私。このアンティークを解体している時は至福そのもの。服を開いていくと、古い針が出てきたり、今ではあまりみないトメ方、縫い方をじっくり観察できて、結果3つの服を作った。

のちにお姉さんから「V magazine」のスタイリストがそれを買っていったと聞かされ、地球のどこかの誰かに認められ自分が信じる道を一つ見つけた気がした。

リメイク中、この当時の人たちはおそらく、正解がない中で試行錯誤を繰り返してオリジナルを追求してきたんだろうと幾度も感じていた。今みたいに、スマホ片手にサンプルを探すなんて時代でもない。

 moilの製作も一緒。今、東京や全国に増殖中のブルーボトルの兄弟みたいな“似たようなカフェ”のように、誰もがおんなじようなコトをトレースする正解は控えめに言ってもつまらない。オリジナルを追求してこそ自分の作品は手にとってもらえる。大切にしてもらえる。味になると感じている。「青いこと言ってんじゃないよ」とお感じの方もたくさんいると思う、ちっちゃくとも100年後にも残す心意気でこちとらやってますから!  

 そんな思いを再確認させてくれるワンピース、やっと着られる季節になりましたね!

 

2022.05.14